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温度差エネルギーシステム分野の現在の研究(1)

海洋温度差発電および海水淡水化に関する研究

1.OTECシステムに関する研究
2.海水淡水化に関する研究
3.プレート式熱交換器の応用的研究
4.低熱源温度差発電システムの最適化及び最大出力に関する研究

 

1. OTECシステムに関する研究

1.1 非共沸混合媒体を用いたサイクル


 佐賀大学海洋エネルギー研究所では、2003年3月に30kW OTEC実験装置を設置しました。熱源は、伊万里湾の海水を使ったり、ボーラーおよび冷凍機で温度コントロールされた熱源が使える機能を有しています。30kW OTEC実験装置は、作動流体としてアンモニア純物質又はアンモニア/水混合媒体を使用し、蒸発器、凝縮器、タービン、再生器、加熱器、気液分離器、吸収器、温冷熱源で構成されています。

OTECの原理

       1.1.1O1-otec30kw.jpg

                                                  30kW OTEC 外観 (3F主要部分)

 

       1.1.1O1b-30kw-cycle.jpg

                                                   30kW OTEC サイクル概念図

 

 

OTECに使用されている蒸発器、凝縮器、再生器、加熱器は「熱交換器」と呼ばれ、海からの熱エネルギーを取り出すための重要な機器です。30kW OTEC実験装置ではそれらの熱交換器にはプレート式熱交換器を使用しております。

1.1.1 evaporator.jpg 1.1.2 condenser.jpg

蒸発器

 

  凝縮器

 

1.1.1O-30kw-regenerator.jpg

1.1.1O-30kw-heater.jpg
再生器

加熱器

 

 

タービンは2段式のラジアルタービンを使用しています。1段目で高圧のアンモニア蒸気を受けて仕事を取り出し、さらに2段目で低圧のアンモニア蒸気で仕事を取り出します。二つの動力を発電機に伝えて電力として取り出します。

 

1.1.1O-30kw-turbine.jpg
                  30 kWタービン

 

 

現在、30kW OTECを使用して以下の研究を進めています。
1.高性能な新しいOTECサイクルに 関する研究
2.OTECサイクルの運転における動特性の解明
3. OTECサイクルの構成機器の性能がシステムの性能に与える影響
4. OTECシステム最適化に関する研究

 

1.2 多段ランキンサイクル

 佐賀大学海洋エネルギー研究所では、NEDOの次世代海洋エネルギー研究開発を受託し、2014年3月に15kW OTEC実験装置を設置しました。この装置では、限られた温度差の熱を有効に利用する為、多段ランキンサイクルを使用し、7.5kWの発電システムを2系統設置しております。作動流体はアンモニア純物質を使用します。30kW OTEC実験装置と同様に、温・冷海水の代わりにボイラーと冷凍機で作った温冷水を使用します。

15kW OTEC実験装置に使用されている蒸発器、凝縮器、補助凝縮器はプレート式熱交換器を使用しております。

タービンは1段式のラジアルタービンで、タービンと発電機の軸が繋がっており、タービン・発電機は一体型になっております。

現在、15kW OTECを使用して以下の研究を進めています。
1. 多段OTECサイクルのシステム有効性の検証
2. 多段OTECの運転における動特性の解明
3. 多段OTECサイクルの構成機器の性能がシステムの性能に与える影響
4. 多段OTECシステム最適化に関する研究

 

1.2.1 t-s diagram1.jpg 1.2.2 t-s diagram2.jpg 1.2.3 double stage Rankine cycle.jpg

  多段サイクルのT-s線図(概念)

2段ランキンサイクル

1.2.4 turbine(MS).JPG 1.2.5 evaporator(MS).JPG 1.2.6 condenser(MS).JPG
           タービン・発電機 蒸発器 凝縮器                           

 

 

1.3 沖縄県久米島における実証研究


 沖縄県は、平成24年度より沖縄県久米島において海洋温度差発電の実証研究の事業を開始しました。佐賀大学海洋エネルギー研究所は、沖縄県からの依頼によって、本事業に協力させて頂いております。

詳細は、リンク先を参照願います。
⇒リンク先:http://otecokinawa.com/

1.3.1 varification test in Okinawa.jpg

沖縄県OTEC実証事業
出典 http://otecokinawa.com/

2.海水淡水化に関する研究

2.1  海水淡水化実験装置


 佐賀大学海洋エネルギー研究所では、海水淡水化の方法の一つである「フラッシュ蒸発式」淡水化装置を用いた研究を行っています。この淡水化装置は、30kW OTECと組み合わせることでハイブリッド式あるいはインテグレート-ハイブリッドシステムとして複合的に用いることで、効率の良い淡水化が可能となります。インテグレート-ハイブリッドシステムとは、OTECを核に、海水淡水化、水素製造、海洋深層水の再利用などを組み合わせたシステムです。

1.1.1O-I-H-OTEC.jpg

      インテグレート-ハイブリッドOTECの概念図

[フラッシュ式海水淡水化装置の原理] フラッシュ式の海水淡水化装置内は真空ポンプで真空状態に保たれていて、そこにノズルから海水を導入すると、一部が蒸発して水蒸気となります。その水蒸気を熱交換器で冷却することで、真水が得られます。佐賀大学海洋エネルギー研究所では、10ton/day規模の造水能力を持つ海水淡水化装置を設置して、造水の最適条件について研究を行っています。

1.1.1O2-Desalination-1.jpg

1.1.1O3-Desalination-inner.jpg

(低圧のフラッシュ蒸発室内にノズルから海水が噴出し一部水蒸気となる)

フラッシュ式海水淡水化装置 外観 フラッシュ蒸発の様子 
 
   

 

 

2.2 実海域での海水淡水化の研究


佐賀大学海洋エネルギー研究所では、沖縄県海洋深層水研究所内に、久米島サテライトを設置し、表層海水と海洋深層水を用いて、フラッシュ式海水淡水化装置の試験を行っています。造水の最適条件や実際に得られた海水の水質の検証などの研究を行っています。

2.2.1 Kumejima satellite.JPG 2.2.2 Desalination equipment in Kumejima.JPG
IOES久米島サテライト 試験装置外観

 

3.プレート式熱交換器の応用的研究

3.1 プレート式熱交換器の防汚技術の研究

 佐賀大学海洋エネルギー研究所では、OTECや海水淡水化の熱交換器にプレート式熱交換器を利用します。プレート式熱交換器は、海水による汚れによって、伝熱性能の低下が懸念されることから、その汚れ物質の付着や増加を防ぐ研究を行っています。防汚技術の対象機器は、熱交換器、海水の取水・送水管、自動ストレーナ等です。主にオゾンやヨウ素などを用いて環境に優しい防汚技術の研究を行っています。

3.1.1 Uvalue history.jpg 3.1.2 Uvalue history.jpg 3.1.3 Bio-fouling experimental apparatus.JPG

熱交換器の熱通過係数及び汚れ係数の経時変化

(○:防汚対策無し、△:防汚対策有り)

 

汚れ試験実験装置

 

 

3.1.4 iodine generation equipment.JPG 3.1.5 Auto-streaner.JPG  
ヨウ素生成装置 動ストレーナ装置  

 

 

3.2 微細加工を施したプレート板を用いた熱交換器の研究

 佐賀大学海洋エネルギー研究所では、NEDOの次世代海洋エネルギー研究開発を受託し、株式会社神戸製鋼所が開発した微細加工を施したチタン合金(HEETTM)を用いた高性能プレート式熱交換器の開発を行いました。このプレート式熱交換器は、今後、久米島の OTEC実証試験装置に適用される予定です。

 
3.2.1 titanium-nicety fabricated surface.jpg 3.2.2 PHE with nicety fabricated plate2.JPG
神戸製鋼所製プレートの微細加工 微細加工を施したプレート式熱交換器
   

 

 

3.3 3Dプリンタを用いたプレート内部の可視化の研究

  プレート式熱交換器は、内部の流路が複雑であり、内部の流れ及び伝熱現象が複雑となります。そのため、当所では、3Dプリンターを活用して、透明な樹脂でプレートを製作することで、内部の流れ、伝熱現象を可視化する方法を提案するととともに、この方法を用いて現象の解明と高性能プレート式熱交換器の開発に取り組んでおります。特に、従来の方法と異なり容易に、プレート内の蒸発・凝縮などの相変化を容易に観察することが可能となるのが特長です。

 
3.3.1 Skelton Plate fabricated by 3D printer.JPG 3.3.2 Image of visuallization.jpg 3.4.3 visuallization of evaporation.jpg
3Dプリンタで製作したプレート 可視化装置 蒸発現象の可視化
     
     

 

3.4 プレート式熱交換器の数値解析

 プレート式熱交換器は、内部の流路が3次元的に複雑な構造となっています。プレート流路全体の構造を把握し、様々なプレート面形状に対して内部の伝熱現象を数値計算により明らかにする研究を行っております。

 

 

3.4.1 CFD geometory.jpg

3.4.2 CFD calculation result.jpg
数値計算で用いる構造図 CFDによる数値計算結果

 

 

4.低熱源温度差発電の最適化及び最大出力に関する研究

 低熱源温度差発電とは、海洋の温度差、温泉水、工場排熱などを熱源として利用した発電で、高温と低温の温度差が15℃~100℃程度の熱源を利用します。低熱源温度差発電のシステムは、熱源間の温度差が小さいため、熱源から熱機関に伝達した熱量に対し、発電出力が比較的小さくなります。また、限られた熱源の流量の場合、熱源から得られる交換熱量は、熱交換する出入口温度差に比例して大きくなります。一方、熱源の交換熱量が大きくなると、熱機関の動作温度が小さくなり、熱機関の熱効率は低下します。熱機関の仕事は、熱交換量と熱効率の積となるため、熱源の温度及び流量が決まっている場合、熱機関から得られる最大仕事は理論的に算出できます。この最大仕事とは、得られる熱源の条件から、理想的に得られる発電出力となります。最大仕事に関しては、各熱機関や熱源から熱を集める動力を含めたシステムの最大仕事の算出やシステムの評価に用いる「新しい低熱源温度差発電の評価方法」に関する研究を行っています。

 

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4.2 maximum work.jpg
低熱源温度差発電概念図 最大仕事概念図