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熱交換器

熱交換器について

 

1. 海洋温度差発電と熱交換器

 海洋温度差発電では、海洋の表層の海水(温海水)と深層の海水(冷海水)の温度差を利用して発電を行います。(海洋温度差発電の原理および詳細ついてはこちら) 熱源の温度差を利用して発電や動力を取り出す機関を「熱機関」と呼びます。海洋温度差発電は「熱機関」ですが、その中でも「外燃機関」と呼ばれる機関になります。外燃機関は、火力発電 (ディーゼル発電、内燃ガスタービン発電を除く、いわゆる汽力発電)、原子力発電などがあります。一方、身近な熱機関として自動車のガソリンエンジンが挙げられますが、こちらは「内燃機関」と呼ばれる機関になります(*1)。

 ところで、熱機関は熱源の温度差により動作すると述べましたが、正確には熱機関は「高温熱源」から熱エネルギーを受け取り、一部を「仕事」に変換し、残った熱エネルギーを「低温熱源」に放出することで動作することになります。ここで、エネルギーの受け取り、放出にはエネルギーの出し入れを行う装置が必要となってきますが、海洋温度差発電の場合それに「熱交換器」が使われます。熱交換器は、その名の示す通り「熱(エネルギー)を交換するための装置」です。

海洋温度差発電における「高温熱源」と「低温熱源」は温海水と冷海水です。海洋温度差発電では温海水の熱を熱交換器の一種である「蒸発器」で熱機関に取り入れます。また熱交換器の一種である「凝縮器」を使って、熱機関から冷海水へ熱を放出することができます。

 なお、熱の受け取り、熱の放出やタービンでの仕事に使われる熱機関内で循環している物質を「作動流体」と呼び、海洋温度差発電では一般にアンモニアが使われています。

 海洋温度差発電で使用されている熱交換器は、現在はプレート型(式)熱交換器が主流です。しかし、海洋温度差発電の開発が開始された初期のころは、一部を除きシェルアンドチューブ型(管型)の熱交換器が主流でした。その後、シェルアンドチューブ型より伝熱性能の高いプレート式熱交換器が開発されたことで、1990年代から海洋温度差発電でもプレート式熱交換器が使われるようになりました (表1)。

 

表1 世界のOTEC実証プラントの熱交換器 (参考: *2 及び  IOES 調査)

プラント 設置年 グロス出力 [kW] 熱交換器の種類 材質
Mini OTEC 1978-79 50 プレート式 チタン
OTEC-1 1980 1000 (kWe) シェルアンドチューブ式 チタン
Nauru 1982-84 100 シェルアンドチューブ式 チタン
Open cycle (NELHA) 1993- 210 直接接触式 アルミニウム & コンクリート
SAGAR SHAKTHI (NIOT) 1997- 1000 プレート式 チタン
海洋温度差発電基礎実験装置(IOES) 2003 30 プレート式 チタン
沖縄県海洋温度差発電実証設備
(久米島)
2013 50+50 プレート式 チタン
Hawaii (Makai) 2015 105 プレート式 アルミニウム

 

 プレート式熱交換器は伝熱性能に優れた(熱通過率を大きくとれる)熱交換器です。特徴として、単位体積当たりの伝熱面積が大きいことから設置面積を小さくとれ管型の熱交換器に比べコンパクトである他に、分解掃除が容易であることからメンテナンス性に優れています。海洋温度差発電では、エネルギー密度が小さい海水を熱源として利用するため、伝熱性能の高いプレート式熱交換器の特徴を生かして効率よく海水の熱エネルギーを回収しています。

 佐賀大学海洋エネルギー研究所では海洋温度差発電の研究の一つとしてプレート式熱交換器の研究を行っていますが、実機を用いたものと基礎実験装置を用いた大きく2種類の研究を行っています。

 

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プレート式熱交換器の構造 (アニメーション 4.5MB [クリックで再生])
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プレート内の流体の流れ方向 (対向流式の場合)

 

 

*1 熱機関の詳細や内燃機関、外燃機関の違いについては「熱力学」の書籍等を参照してください。

*2 http://www.clubdesargonautes.org/otec/vol/vol11-2-1.htm

 

2. 熱交換器の原理について

 前節では海洋温度差発電で熱交換器を使って海水の熱エネルギーを回収していることを述べましたが、ここで、改めて熱交換器の一般的な原理について説明します。図1に熱交換器の概念図を示します。熱交換器にはまず、流体(液体・気体)を流すことのできる2種類の通路 (「流路」と呼びます)が設けられており、流路にはそれぞれ入口と出口があります。また、それぞれの流路には異なる温度の2種類の流体を各入口から流すと仮定します。また、2つの流路は金属の薄い板で仕切られていて、流体が混じり合わないものとします。ここで簡単のため熱交換器に流す液体を「水」とし、高温側の水を「温水」、低温側の水を「冷水」とします。以上の条件で熱交換器に各入口から温水・冷水をある速さ(流量)で流すと、冷水は出口で温度が高くなり、一方、温水は出口で温度が低くなる現象が観察されます。このように、流した2種類の流体が熱交換器内で熱エネルギーの交換を行うことで、各流体の温度は入口と出口で変化する。これが熱交換器の基本原理とります。

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図1 熱交換器の概念図

 

 実際の熱交換器では、各入口出口の温度や流量を測定することで、熱交換器内でどれだけの熱エネルギーが交換されたかについて計算で求めることができます。交換された熱エネルギーの量を熱交換量 [記号: Q, 単位: W (ワット)]と呼びますが、それぞれ高温流路側、低温流路側で次の式を使って計算します。

 

高温側流路側の熱交換量 Qh = mhCph(Th, inTh, out)

低温側流路側の熱交換量 Qc = mcCpc(Tc, outTc, in)

 ここで、mは質量流量[kg/s], Cpは定圧比熱[J/kgK], Tは温度[K]を示します。また、添え字hは高温側, cは低温側, inは入口, outは出口をそれぞれ示します。

 熱交換器では高温側流路側の流体から得られた熱エネルギー量を、そのまま低温流路側の流体に受け渡すことができると考えます(*3)。よって、これらの値は等しいことから熱交換量QQ = Qh = Qc として求めることができます。以上の式により、熱交換量を求めることができます。

*3 熱交換器が周囲に対して十分に断熱されており、熱の損失がないものと仮定します。

 

3. 身近な熱交換器

 熱交換器は熱機関、外燃機関だけではなく、様々な身近な機械、機器にも使用されています。例えば、エアコンの室内機、室外機の中に熱交換器が組み込まれています。冷蔵庫にも使われています。車のラジエターも熱交換器です。ヒートポンプ給湯器 (エコキュート)にも熱交換器が使われています。その他、ヒートポンプ式洗濯乾燥機、除湿器 (コンプレッサー式、デシカント式)、冷水器、冷風機・・・と様々な電化製品の中にも、物を冷やすあるいは温めるための装置として使われています。その他、一般家庭で使われている製品以外に、工場やオフィスの空調機器、ボイラー、船舶、鉄道、航空機などに搭載された各種冷却機器など産業、運輸分野でも様々な形で使用されています。

 ところで、なぜ様々な機械に熱交換器が使われるのでしょうか。たとえば、物を温める方法として、身近なところで調理用のガスコンロやIHヒーターがあります。これらを使って水を温めお湯を沸かすことを考えてください。やかんに水を入れてガスコンロにかけます。しばらくたつと水の温度が上がり最後には水は沸騰してお湯が沸きます。コンロを使うことでものを温める役割は果たしています。しかし、沸かした水とは別の水を沸かす必要が出てきた場合を考えてください。やかんのお湯を別な容器に一旦移し替えて再度水を入れて沸かす必要があります。もし、水道のように連続して出てくる冷たい水を次々と沸かそうと思った時には、お湯が沸くたびに移し替えが必要となり(回分操作、バッチ処理と呼びます)、非常に大変な作業となってきます。一方、熱交換器を使えば、水道のように連続して出てくる水を温める場合でもそのような回分操作をする必要なく、連続的に温度を変化させることができます(連続操作と呼びます)。のがこれが熱交換器のメリットなのです。

 

4. 熱交換器の種類

 さて、これまで熱交換器が使われている機械、機器について例を挙げてきましたが、これらの熱交換器は「物を冷やす、あるいは温める」という役割のみが共通項で、「温める・冷やす対象、あるいは対象を温める・冷やす方法」については、機器によって様々となります。また、熱交換することによって対象の温度が変化する以外にその対象自身の状態も変化する場合もあります。目的によって熱交換器そのものの形状も違ってきます。

そこで、様々な熱交換器の種類について幾つか例を挙げて説明をしたいと思います。

 

I) 媒体の状態の組み合わせによる分類

 熱交換の対象となるのは、物質の3態 (固体・液体・気体) (*4)にあるいずれかの状態の物質です。また、熱交換の対象となる物質を「媒体 (media)」と呼びます。媒体と物質の状態により様々な組み合わせが考えられます。

*4 物質の3態については中学校の理科で学習します。3相 (固相・液相・気相)とも呼びます。

 

A. 単相同士の熱交換 (※単相: 媒体の相が熱交換器内で変化しない)

① 気体で液体を冷やす (気-液の熱交換)

例) 自動車のラジエター: エンジンで温まった冷却水(液体)をラジエター内で外の空気(気体)と熱交換させて冷やします。

 

② 液体で気体を冷やす (気-液の熱交換)

例) ファンコイルユニット: 冷水(液体)を熱交換器に流し、またその周囲にファンで空気を流すことで空気(気体)を冷却し、冷風を発生する装置です。

 

③ 気体で液体を温める (気-液の熱交換)

例) ガス・石油ボイラー: 炉内で燃料を燃焼させ、発生した燃焼ガス(気体)で水管内の水(液体)を温めます。

 

④ 液体で別の液体を温める、冷やす (液-液の熱交換)

例) 自動車用水冷式オイルクーラー: エンジンで加熱されたオイル(液体)をラジエター液(液体)で冷却します。空冷式の場合は、オイル(液体)と空気(気体)で熱交換してオイルを冷却します。

 

⑤ 気体で別の気体を温める、冷やす (気-気の熱交換)

例) 空気予熱器: 火力発電所のボイラー用に使用される装置です。外部から取り入れた燃焼用の空気(気体)をボイラーの排気ガス(気体)で温めて、予熱します。

 

⑥ 気体で固体を温める、冷やす (気-固の熱交換)

例) 全熱交換器: 換気扇のように屋内の空気を換気するための装置ですが、換気扇とは異なり屋内の空気が持つ熱をその熱交換器内に一旦蓄熱を行い、新たに屋外から取り入れた新鮮な空気に放熱することで空気の換気をしつつ熱を逃がさない仕組みを持つ熱交換器です。この時、空気(気体)と蓄熱材(固体)との間で熱交換を行います。大きなビルなどに設置されています。

 

B. 相変化を伴う熱交換 (※媒体が熱交換の途中で異なる相に変化)

① 液体で液体を温め気体に変化させる (蒸発現象)

例) 海洋温度差発電の蒸発器: 温海水(液体)でアンモニア(液体)を温めることによって蒸発させ蒸気にする(気体)。

 

② 気体で液体を温め気体に変化させる (蒸発現象)

例) エアコンの蒸発器: 室内の空気(気体)が冷媒(液体)を温めることによって蒸発させ蒸気にする(気体)。

例) ボイラーでは、燃焼ガス(気体)を使って水管内の水(液体)を温めて蒸気を作ります。

 

③ 液体で気体を冷やし液体に変化させる (凝縮現象)

例) 海洋温度差発電の凝縮器: 冷海水(液体)でアンモニア(蒸気)を冷やすことによって凝縮させ液体にする。

例) 火力発電所の復水器: 海水や河川水(液体)で水蒸気(蒸気)を冷やすことによって凝縮させ水(液体)にする。

 

④ 気体で気体を冷やし液体に変化させる (凝縮現象)

例) エアコンの凝縮器: 屋外の空気(気体)が冷媒(気体)を冷やすことによって凝縮させ液体にする。

 

 

II) 熱交換器の形状による分類 (*5)

熱交換器はその形状から隔壁(板)式と直接接触式の大きく2種類に分類できます。さらに以下のように細かく分類できます。

 

A. 隔壁(板)式熱交換器

① 管状熱交換器

・二重管型

・シェルアンドチューブ型

・スパイラル管型

 

② 拡大伝熱面

・フィンアンドチューブ型

・円周フィン管型

・プレートフィンアンドチューブ型

・コルゲートフィンアンドチューブ型

 

・プレートアンドフィン型

・ドローンカップ型

・プレートフィン型

 

③ 平板状熱交換器

・プレート型

・渦巻型

 

B. 直接接触式熱交換器

・回転型

・バルブ切替型

 

*5 日本機械学会編,機械工学便覧 応用システム編γ3 熱機器, 丸善, 2005, pp. 1-7.

 

III) 流路形式による分類 (*6)

熱交換器では複数の流体を流すことによって熱交換を行いますが、目的によって流体の流れる向きが異なります。以下に一般的に使われる3種類の向きの組み合わせについて示します。

 

A. 対向流式
B. 並行流式
C. 直交流式セルを削除

counter-flow-hex.jpg parallel-flow-hex.jpg
A. 対向流式 B. 並行流式
cross-flow-hex.jpg  
C. 直交流式  

 

*6 日本機械学会編,機械工学便覧 応用システム編γ3 熱機器, 丸善, 2005, pp. 1-7.

 

以上です。