波浪エネルギー分野の現在の研究
波浪エネルギー分野の現在の研究
現在、波浪エネルギー分野で行われている研究について紹介します。
佐賀大学における波力発電装置の研究開発
後ろ曲げダクトブイ、浮体型振り子式波力発電装置の実用化を目指し、各装置の高効率化および設計手法の確立を目的として、模型を用いた水槽実験、数値解析コードの開発を行っている。
1. 後ろ曲げダクトブイ(Backward Bent Duct Buoy : BBDB)の開発
2. 浮体型振り子式波力発電装置(Floating Type Pendulum Wave Energy Converter : FPWEC)の開発
3. 渦法による浮体構造物の非線形波浪中挙動解析法の開発と波力発電装置の性能解析への適用
4. 固定式振動水柱型波力発電装置(Fixed Oscillating Water Column-Type Wave Energy Converter)の開発
1. 後ろ曲げダクトブイ(Backward Bent Duct Buoy : BBDB)の開発
BBDBは浮体式振動水柱型の波力発電装置で、L字型の水柱ダクト、浮力体、タービン、発電機で構成されている。
後ろ曲げダクトブイ(BBDB)
1.1 発電性能に関する研究
(1) 実験的研究
佐賀大学所有の海洋流体エネルギー実証試験水槽(2次元造波水槽、長さ18m、幅0.8m、水深1m)を用いた2次元実験では、全長0.85 mのアクリル製小型BBDB模型の空気室上部に設けたオリフィスによって発電タービン負荷を模擬し、波高0.03m~0.05mの規則波中における一次変換効率η(波パワーから空気パワーへの変換効率)を求めた。また、同じ模型に関して、九州大学応用力学研究所所有の大型水槽(長さ65m、幅5m、水深7m)での3次元実験も行っている。2次元実験では、一次変換効率の最大値として約70%が得られた。3次元実験結果では、浮体からの波の回折影響で多方向から波が入射していることに対応して、一次変換効率が100%に達している周波数もある。
BBDBの一次変換性能に関する2次元、3次元実験結果 |
また、空気タービンと発電機を搭載したBBDBの中型模型(長さ:2.5m, 幅:2.3m, 高さ:1.8m, 喫水:0.5m)に関する発電実験を大型水槽で行った。実験には、佐賀大学で開発した固定案内羽根付の衝動タービンを用いている。波浪中発電実験の結果、発電効率ηGの最大値として約30%が得られた。
空気タービンを搭載した中型BBDB模型 |
また、平成23年福岡県能古島沖の海域において、この中型BBDB模型を用いた発電実験を行った。
BBDBの実海域実験の様子
(2) 数値計算
BBDBの規則波中における一次変換性能を評価するため、2次元数値計算法を開発した。BBDBは線形バネで係留されているものとして、規則波が入射したときのBBDBの運動、空気室圧力、空気室内水面の変動、一次変換効率を求める。水に関する流体部には、速度ポテンシャルの存在を仮定し、境界要素法を用いる。空気室内の空気は圧縮性流体として、状態方程式、質量保存則、エネルギー方程式を基礎式として用いている。
BBDBの計算モデル | 一次変換性能に関する実験値と計算値の比較 (L:BBDBの長さ、λ:波の波長) |
また、BBDBの発電性能計算に必要となる周波数領域でのBBDBに働く流体力計算についても3次元境界要素法に基づいた計算を実施して、実験結果と比較することにより計算法の有効性を示している。下図に、固定されたBBDBに働く鉛直方向の波強制力と、静水中におかれたBBDBを鉛直方向に強制動揺させた時に、BBDBに鉛直方向に働く力を示す(白丸は実験値、各線は空気室内の水面の摩擦の程度を変化させた時の計算値)。
BBDBに働く鉛直方向の波強制力 | 付加質量係数 |
1.2 漂流力に関する研究
(1) 実験的研究
通常の浮体構造物は波下側へ漂流するが、BBDBは、特定の周波数帯を持つ入射波の下で、波上側へ微速前進する特性を持つ。この特性は係留力を緩和させるので、係留コストを削減させることができる。この特性を明らかにするために、2次元水槽で、小型模型を用いて、模型に働く漂流力(水平方向に働く定常力)実験を行った。図では、λ/L=5~6.5程度の領域で、波上側方向へ働く漂流力(負の漂流力)が発生している。(λ:波の波長、L:BBDBの長さ)
BBDBに働く漂流力 |
(2) 数値計算
MPS法を用いて、無係留状態のBBDBの波浪中運動計算を行い、BBDBに負の漂流力が働くことを示した。
MPS法によるBBDBの波浪中運動計算結果 |
2. 浮体型振り子式波力発電装置(Floating Type Pendulum Wave Energy Converter : FPWEC)の開発
渡部によって提案された浮体型振り子式波力発電装置 |
渡部によって提案された浮体型の振り子式波力発電装置の実用化研究を行っている。この装置は、浮体、振り子、振り子の回転トルクを油圧に変換する油圧ポンプ、油圧を電力に変換する油圧発電機で構成される。
(1) 実験的研究
まず、動力取り出し装置の負荷特性を模擬することができるサーボモータを装備した浮体型振り子式波力発電装置模型を製作し、一次変換性能(波パワーから振り子のパワーへの変換)に関する水槽実験を行った。実験では、減衰係数CPが、一次変換効率および浮体の運動に及ぼす影響を明らかにした。実験の結果、一次変換効率の最大値として98%が得られた。
サーボモータを装備した浮体型振り子式波力発電装置模型 |
次に、動力取り出し装置をベルトとプーリによる増速機構で模擬し、この装置を浮体に搭載した発電実験を行った。実験の結果、発電効率の最大値は22%で、装置の改良が必要である。
FPWEC模型 | 動力取り出し装置模型 |
サーボモータの負荷特性を変化させた時の一次変換効率の周波数特性 | 発電機の電気抵抗を変化させた時の発電効率の周波数特性 |
(λ:波の波長、L:装置の代表長さ) |
(2) 数値計算
FPWECの規則波中における一次変換性能を評価するため、2次元数値計算法を開発した。FPWECが線形バネで係留されているものとして、規則波が入射したときのFPWEC全体の運動、振り子の運動、一次変換効率を求める。水に関する流体部には、速度ポテンシャルの存在を仮定し、境界要素法を用いる。
境界要素法の計算モデル
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浮体全体の水平運動X, 鉛直運動Z, 回転運動Θ、一次変換効率η1, 振り子の回転角Ψの周波数特性に関する計算値と実験値の比較 |
3. 渦法による浮体構造物の非線形波浪中挙動解析法の開発と波力発電装置の性能解析への適用
波力発電装置は入射波エネルギー吸収装置で、装置の最適設計においては、装置内の可動部の固有周期を、海域の卓越波の周期に一致させる手法が採用されます。このような共振状態において、 浮体型装置では、浮体運動に伴い浮体端部から生じる渦の生成と流体内への粘性拡散や、浮体表面の壁面摩擦等の流体の粘性に伴うダンピングが浮体運動や発電効率に大きく影響するため、装置の性能評価のためには、流体の粘性影響や物体表面から発生する渦の影響を直接考慮できる粘性流体解析法が必要となります。
研究所では、このような目的に適した手法として, 粘性流体を対象として、“渦法による2次元浮体構造物の非線形波浪中挙動解析法”を提案しました。この方法は、以下のような特徴を持っています。
① 流速と渦度を未知量とする“渦度方程式”の解法には、フラクショナル・ステップ法を用いて、時間方向の1ステップの計算を、前半のConvection stepと後半のDiffusion stepの2段階で計算する。速度ベクトルの非回転成分計算を行う前半のステップでは、速度ポテンシャルに関する境界積分方程式に、非線形自由表面条件、水底条件、浮体表面条件 、波の放射条件を代入して解くことにより、時々刻々、移動する自由表面と浮体表面位置を追跡する。
② 後半のステップでは、渦度の粘性拡散の計算にCore-Spreading法を用いる。
③ 物体境界面からの渦度の発生方法に関しては、滑らかな物体表面については渦層モデル、物体の角部についてはVorticity sheddingモデルの2つを併用する。
④ 物体表面に働く流体圧力の計算には、Uhlman (1992)によって提案された、粘性流体の基礎式から導かれた“総エネルギーに関する境界積分方程式”を用いる。
この計算法を、一様流中の円柱周りの流れ、没水平板の鉛直運動, 係留された矩形や三角形断面浮体の波浪中運動に関する計算結果と実験結果と比較することにより, 提案した計算手法の有効性を示しました。この計算手法の提案で、日本船舶海洋工学賞(論文賞)、日本造船工業会賞、日本海事協会賞の3賞を受賞(2016)しました。
浮体型波力発電装置“後ろ曲げダクトブイ(BBDB)”
この計算手法を、浮体式の振動水柱型波力発電装置“後ろ曲げダクトブイ(BBDB)”の一次変換(波パワーから空気パワーへの変換効率)性能評価に適用して、BBDBの運動、空気室内の水面変位と空気圧力、一次変換効率に関する計算値は、水槽実験による実験値とよく一致することを確認しました。
BBDBの一次変換効率の周波数特性
BBDB周りの渦度分布
BBDB周りの流速ベクトル
4. 固定式振動水柱型波力発電装置(Fixed Oscillating Water Column-Type Wave Energy Converter)の開発
固定式振動水柱型波力発電装置は、空気室および空気タービンで構成されて、台風等の異常海象下では、空気室壁の弁を開けて空気室内の空気を大気開放することが可能なため、より安全な装置として認識されている。振動水柱(OWC)型装置のエネルギー変換過程は、波浪の上下動を空気の振動流に変換する一次変換と、空気の振動流をタービンの回転に変換する二次変換とに分けられる。
固定式振動水柱型波力発電装置
ここでは、固定案内羽根を有する衝動タービンを搭載した固定式OWC型波力発電装置の空気室奥行Lが効率に及ぼす影響を実験的に検証し、さらに、タービン形状パラメータを種々変更した規則波中二次元水槽実験も実施した。これらの実験に用いたOWC模型は発電機を搭載しておらず、タービンはモータで強制回転させた。
固定式OWC型波力発電装置模型
固定案内羽根付き衝動タービン
(γ:ロータ入口(出口)角、θ:案内羽根設定角)
空気室奥行L = 0.5m、0.7m、0.9mの場合
タービン回転速度Nt=700rpmにおける空気室奥行Lが効率に及ぼす影響
(η1:一次変換効率、η2:二次変換効率、η:η1およびη2の積、λ:波長)
波長と空気室奥行との比λ/L=6.3におけるロータ入口(出口)角γが効率に及ぼす影響
(Zr:ロータ翼枚数、θ:案内羽根設定角、Zg:単段あたりの案内羽根枚数)
さらに、発電機を装備した固定式OWC型波力発電装置の一次および二次変換効率に及ぼす発電機およびタービンの回転速度の比Ng/Nt、電気抵抗Rの影響についても実験的に検討した。
発電機を装備した固定式OWC模型
発電機およびタービンの回転速度の比Ng/Ntが効率に及ぼす影響
(Ng:発電機の回転速度、R:電気抵抗値)