ホーム > 組織 > 有馬博史 >JKA2025

JKA機械振興補助事業

2025年度
海洋温度差発電用高性能アルミ製プレート式熱交換器の開発補助事業 

 

<研究概要>

本事業では、海洋温度差発電(Ocean Thermal Energy Conversion, 以下OTEC)用プレート式熱交換器の性能向上を目指し、高性能アルミ製プレート式熱交換器の開発を行う。陽極酸化アルミ材を伝熱面材料として用いたプレート式熱交換器の開発のため、伝熱面形状の最適化計算及び最適化された伝熱面を用いた実証実験の2つの研究を遂行する。研究では、まず伝熱性能が最適となる伝熱面の最適形状を数値シミュレーションにより導出する。次にそこで得られた最適形状を基に新規に伝熱プレートの設計製作を行い、さらにその伝熱面を用いて性能評価実験を行う。実験は佐賀大学海洋エネルギー研究所万里サテライト(佐賀県)、同久米島サテライト(沖縄県)にある既存の装置を用いて行う。伊万里サテライトではアンモニアが使用可能な実験設備、久米島サテライトでは海水が使用可能な設備を備える。各実験ではアンモニア沸騰及び海水熱伝達率について測定を行うことで、伝熱性能を明らかにし、また、既存の装置との比較により伝熱性能の向上について確認する。以上によりアルミ製プレート式熱交換器の開発及び実証実験を遂行する。

 

<研究の目的と背景>

海洋温度差発電(OTEC)は、熱源として表層水(25-30℃)、深層水(5-10℃)を用いて、その温度差で発電を行う。発電サイクルは、プレート式熱交換器である蒸発器と凝縮器、蒸気タービン、ポンプで構成される。そのサイクル内には作動流体としてアンモニアが循環している。現在OTECは沖縄県久米島とハワイ島に100kW級の実証プラントが稼働しており、将来の実用化に向けた研究が進められている。OTECの実用化には熱交換器の性能向上が不可欠となっており、これまで、申請者は「プレート式熱交換器のアンモニア沸騰伝熱性能評価」「熱伝達率向上に向けた伝熱面形状に関する研究」に関する研究を行ってきた。一方、プレート式熱交換器では伝熱プレートの材料としてチタンが一般的に使われているが、製造コストが高いことから、海洋温度差発電の普及を妨げる要因の一つとなっていた。そこで、申請者は伝熱性能の向上と低コスト化を目指してアルミ材を伝熱プレートの材料として新たに提案し、これまでOTECの熱媒体であるアンモニアと海水に対する腐食性及び伝熱性能の試験を行ってきた。その結果、「陽極酸化アルミ材がアンモニアおよび海水に対し耐食性、伝熱性能を示す」ことが明らかになり、その材料を用いたプレート式熱交換器を開発することで、熱交換器の高性能化、低コスト化が可能になると考え、同熱交換器によりOTECの性能向上を目指すことにした。実用的なプレート式熱交換器の開発には、陽極酸化アルミ伝熱プレートを用いた実証実験を行うことが不可欠であることから、実際に伝熱プレートを加工し、それを用いた熱交換器によりアンモニア及び海水環境下での伝熱性能の測定を行うことにした。また、伝熱プレートの加工の際に、伝熱性能が最も良くなる伝熱プレートの形状についても同時に与える必要があるため、事前に数値シミュレーションによる熱流動計算により、形状の最適化も行うことで、実験とシミュレーションにより、高性能でかつ実用性の高いプレート式熱交換器を完成させることを目的とする。

 

<研究成果>

(1) 数値シミュレーション計算

初期の二相流数値計算モデルとして、ヘリンボーン型プレート式熱交換器の伝熱面 (波板)で構成される流路を基に、それを縮小化した流路 (幅10mm, 長さ52.15mm, 高さ4.38mm) を単位波板モデルとして構築した。流路は波板の中央部における波形の幅lw (= 4.74, 9.48, 18.96 mm), ヘリンボーン角β(= 60°, 80°) をパラメーターとして、計6種類のモデルを使用した。計算に用いた計算モデルの寸法図を図1に示す。
数値計算には、商用ソフトのANSYS2023R2/Fluentを使用し、以下の計算モデルで行った。定常, 陰解法, 乱流モデルとしてk-εモデル, 二相流計算としてVOF法, 沸騰モデルとしてLeeモデル、気液界面における物質移動はEvaporation-Condensationモデルを使用した。なお、数値モデルの健全性の確認のため、流体として使用した物質は水-水蒸気、物性値は大気圧における飽和温度 (Tsat= 373.15K)における値を使用した。計算条件として、流路入口の質量流束Gとして3.5, 7 kg/m2s, 伝熱面(波形面)における熱流束qとして7, 10, 14 kW/m2を与えた。
 
lw 4.74 9.48 18.96
β=60 
β=80
図1 数値計算モデル (単位波板モデル) 
 
lw 4.74 9.48 18.96
β=60 
β=80
図2 計算メッシュ図 (単位波板モデル) 

数値計算の結果の一例として、幅方向の中央断面 (y = 5mm) におけるボイド率及び温度分布を図3に示す。lw = 9.48においてボイド率が最も高い値を示した。また、温度分布から波板の凹部に高温領域が集中し、β=80°, lw = 18.96の条件を除いて流路全体への温度の広がりは少ない。またβ=80°, lw = 18.96の条件では流路全体に大きな温度分布を示すものの、ボイド率βavの値が全体に小さいことから、沸騰熱伝達による影響が少ないことを示している。

 
lw 4.74 9.48 18.96
β=60 
β=80
(a) ボイド率分布 
lw 4.74 9.48 18.96
β=60 
β=80
(b) 温度分布 
図3 計算結果 (G = 3.5 kg/m2s, q = 8 kW/m2

次に、図4にpw/hwの違いによる平均ボイド率αav及び伝熱面における平均沸騰熱伝達率havについて比較を行った。ここで、hwは波形の高さであり、全ての条件でhw = 2.376mmを与えた。pwは波板のピッチであり、式(1)から求めた。

図4より、各質量流束、熱流束条件においてボイド率及び沸騰熱伝達率が高くなるpw/hwは、pw/hw ≈ 4であることが明らかとなった。また、ボイド率及び沸騰熱伝達率が高くなるシェブロン角βの条件は60 < β < 80であることが明らかとなった。 これらのことから、pw/hw = 3.75, β = 70°の形状を持つ伝熱プレートの加工を行い、それを用いて海水およびアンモニア実験を行った。


pw = lw/ sinβ                                        (1)

 
G [kg/m2s] 平均ボイド率 αav 平均熱伝達率hav
3.5
7
図4 pw/hwによる平均ボイド率及び平均熱伝達率の変化

(2) 海水を媒体とする伝熱性能評価実験

本研究で製作したpw/hw = 3.75, β = 70°形状の伝熱プレートを図5に示す。

図5 製作した伝熱プレート

海水による伝熱性能評価実験では、図5の伝熱プレート5枚で構成したプレート式熱交換器をテストセクションとして用いた。
図6(a)に実験で用いたプレート式熱交換器を示す。図6(b)に実験装置の外観写真、図6(c)に実験装置概略図を示す。
実験装置はプレート式熱交換器、海洋深層水供給用配管、温水タンクとポンプで成る温水循環系で構成される。
実験では、プレート式熱交換器の低温側に海洋深層水、高温側にヒーターで加熱した海水を等流量で通水し、熱交換を行うことで各海水流量による伝熱量の変化について測定した。

 
(a) プレート式熱交換器 (PHE) (b) 実験装置外観
 
(c) 実験装置概略図
図6 海水実験装置

図7に実験で得られた伝熱量Qh及び熱伝達率hhの結果を示す。実験で与えた質量流量の条件下では伝熱量および熱伝達率は、温海水の質量流量の増加に伴い増加した。

 
(a) 伝熱量Qh (b) 熱伝達率hh
図7 測定結果

(3) アンモニアを媒体とする伝熱性能評価実験

アンモニアによる伝熱性能評価実験では、図5の伝熱プレート6枚で構成したプレート式熱交換器をテストセクションとして用いた。 図7(a)に実験で用いたプレート式熱交換器を示す。図7(b)に実験装置概略図を示す。実験装置はプレート式熱交換器、アンモニア循環系、温水タンクとポンプで成る温水循環系、冷凍機を熱源とする冷水循環系で構成される。 実験では、プレート式熱交換器の低温側にアンモニア、高温側に温水をそれぞれ通水し、プレート式熱交換器で熱交換を行うことでアンモニアを蒸発させ、プレート式熱交換器における熱通過率、沸騰熱伝達率について測定を行った。

 
(a) プレート式熱交換器 (b) 実験装置概略図
図8 アンモニア実験装置

図9に実験で得られた熱通過率Uwfおよび沸騰熱伝達率hwfの結果を示す。熱通過率は、温水の質量流量の増加に伴い増加するが、mh > 0.15ではほぼ一定になることが分かる。 質量流量Gwf > 6.1 kg/m2sでは質量流束による熱通過率の違いはほとんど見られなかった。また、沸騰熱伝達率は、Gwf > 6.1 kg/m2sでは乾き度xによらずほぼ一定のhwf = 2500 W/m2Kを示した。 Gwf < 6.1 kg/m2sではhwf > 4000 W/m2Kを示し、乾き度xの増加に伴い値増加する傾向を示した。

 
(a) 熱通過率Uwf (b) 沸騰熱伝達率hwf
図9 測定結果


※この事業は、オートレースの補助を受けて実施しました。

jka-cycle.jp
autoraceバナー