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JKA機械振興補助事業

2019年度
アルミ製伝熱プレートを用いた海洋温度差発電用プレート式熱交換器に関する研究補助事業  
成果報告

 

<研究概要>

本研究は、海洋温度差発電およびスプレーフラッシュ式海水淡水化装置に用いるアルミ製ヘリンボーン型伝熱プレートを用いた高性能プレート式熱交換器を新規に開発することを目的とする。
海洋温度差発電は2013年に沖縄県久米島、2015年にハワイで海水を使用した実証プラントが稼働しており、実用化に向けた研究が一段と加速している。一方で、プラントの性能向上に向けた研究として装置を構成する個々の機器についても並行して進められている。その中でも海洋温度差発電は海水の持つ海洋熱エネルギーを利用して発電を行うため、高性能な熱交換器の利用が不可欠となっている。現在、海洋温度差発電用の同熱交換器では伝熱プレートの材料としてチタンが使われているが、熱伝導率の低さとコストが高いことから、海洋温度差発電の普及を妨げる要因の一つとなっていた。そこで、申請者は伝熱性能の向上と低コスト化を目指してアルミを伝熱プレートの材料として新たに提案し、これまで海洋温度差発電の熱媒体であるアンモニアと海水に対する腐食性及び伝熱性能のテストを行ってきた。
本研究では、これまでの研究の発展として、既存のチタン製伝熱プレートと同一形状の伝熱プレートの製作を実際に行い、プレート式熱交換器における伝熱性能の比較を行うことにした。
まず初めに、3D CADデータを元にプレート製造に用いるプレス用金型の製作を行い、それを用いてヘリンボーン型アルミ製伝熱プレートをプレス加工した。
次に、過去の研究でアンモニア耐腐食性があることを確認した表面処理法である陽極酸化と陽極酸化塗装複合被膜で伝熱プレートのコーティングを行う。
この伝熱プレートを既存のプレート式熱交換器に組込み、水または海水による単相熱交換実験、アンモニア沸騰熱伝達実験、水蒸気の凝縮熱伝達実験による伝熱性能試験を行うことで実用性の確認を行った。

 

<研究成果>

①アルミ製伝熱プレートの製作

本研究において主要な実験材料である新伝熱プレートの製作を行った。伝熱プレートはアルミ材(A1050)の薄板を材料とした。表面形状は、チタン製の一般的な市販品伝熱プレートに見られるようなヘリンボーン型とした。伝熱プレートの外観図を図1に示す。プレートのサイズは幅100mm、高さ350mm、板厚は1mm、波型凹凸の最大幅は3.5mmである。またシェブロン角は45度とした。
なお、伝熱プレートは3D CADソフトを用い設計を行い、3Dプリンターを用いて試作を行った後にプレス加工の専門業者にて金型加工を行った。作られた金型をもとにプレスにより製品の加工を行った。
加工後の伝熱プレートには、アンモニアによる腐食対策として、陽極酸化と陽極酸化塗装複合被膜の2種類の表面処理行った。今回の研究では、陽極酸化表面処理による伝熱プレート(図2)を用いた。
Al-PHE-Plate
図1 伝熱プレートの外観および寸法図
al-ao-plate
図2 陽極酸化表面処理後の伝熱プレート
 

②単相熱交換実験

新伝熱プレートを用いた単相(温水-冷水)の熱交換実験を行った。図3に実験装置概略図を示す。実験装置は、テストセクション(プレート式熱交換器)、冷凍機、温水タンクおよび温水ポンプで構成される。テストセクションであるプレート式熱交換器の外観写真を図4に示す。冷水および温水を任意の温度と流量でテストセクションに循環させて熱交換を行い、その際の温水・冷水側のそれぞれの入口および出口の温度を測定することで、熱通過率を求めることで、伝熱性能の評価を行う。得られた熱通過率の例を図5に示す。
hotwater-coldwater-phe
図3 単相熱交換実験装置概略図
phe-al-plate

図4 テストセクション外観図

図5 温水流速に対する熱通過率

 

③アンモニア沸騰熱伝達実験

新伝熱プレートを用いたアンモニア沸騰熱伝達実験を行った。図6に実験装置概略図を示す。実験装置は、テストセクション (プレート式蒸発器)、凝縮器、作動流体タンク、サブクーラー、2基の冷凍機、温水タンク、作動流体ポンプ、温水ポンプで構成される。テストセクションであるプレート式蒸発器は、図4のプレート式熱交換器と同一のものを使用した。実験では、②の単相実験と同様な方法を用いて熱通過率を求め、さらに得られた熱通過率からアンモニアの熱伝達率を求めた。得られた熱通過率とアンモニア熱伝達率の例を図7,8に示す。
nh3-al-plate-phe

図6 アンモニア沸騰実験装置概略図

図7 温水流速に対する熱通過率

図8 出口乾き度に対するアンモニア沸騰熱伝達率

④水蒸気の凝縮熱伝達実験

新伝熱プレートを用いた水蒸気の凝縮実験を行った。図9に実験装置概略図を示す。実験装置はフラッシュ蒸発式海水淡水化装置を想定したものであり、テストセクション (プレート式凝縮器)、真空温水タンク,清水タンク,真空ポンプ,冷凍機で構成される。テストセクションであるプレート式凝縮器は、図4のプレート式熱交換器と同一のものを使用した。実験では、②の単相実験と同様な方法を用いて熱通過率を求め、さらに得られた熱通過率から水蒸気の凝縮熱伝達率を求めた。得られた熱通過率と水蒸気の凝縮熱伝達率の例を図10,11に示す。
water-vapor-al-plate-phe

図10 水蒸気凝縮実験装置概略図
Herringbone-Al-Des-Vc-U-all.jpg
図11 冷水流速に対する熱通過率

Herringbone-Al-Des-mv-hv-all.jpg
図12 水蒸気質量流量に対する凝縮熱伝達率

 

<総括>

新伝熱プレートを用いた熱交換器における3種類の実験を行うことによって、単相、アンモニア沸騰、水蒸気凝縮の伝熱性能を得た。
アンモニア沸騰熱伝達率については良好な結果が得られた。一方、淡水化における凝縮熱伝達率は、良好な値が得られなかった。プレート式熱交換器内の圧力損失が想定より大きなものとなり、水蒸気の流量が十分に得られなかったことが理由として考えられる。今後は、こられの結果から、伝熱プレートの設計の見直し、性能の向上を目指した研究を進める予定である。

 

 

※この事業は、オートレースの補助を受けて実施しました。

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