ホーム > 海洋エネルギーとは > 波力発電

波力発電

波力発電

1. はじめに
波力発電は再生可能エネルギー利用の一つであり、地球温暖化にともなう二酸化炭素排出規制を受け、世界中で研究が進められている。現在、波力発電装置の研究の中心は欧米にあり、小規模な模型の水槽実験から商業規模に近い装置の実海域実験まで精力的に研究が進められている。

2. 波力発電装置開発をとりまく環境

先進国においては2050年のカーボンニュートラルが宣言されており,化石燃料から再生可能エネルギーのシフトが必要とされている。2019年の世界全体の発電において再生可能エネルギーの占める割合は27.3%であり、そのうち水力発電が15.9%,風力5.9%,太陽光2.8%,バイオマス2.2%となっている1)。波力エネルギーはEUにおいて2018年に500kW設置、2010年から現在までの累積2.9MW設置された2)


3. 波力発電装置の開発
Table 1に波力装置の方式の分類、Table 2に近年実海域実験を実施した波力装置を示す。Table 2に示した装置は商業フルスケールに近い規模でグリッド接続して実験が行われている。フルスケールの波力発電装置単体の実証発電はPowerbuoyで実証されている。数年後に5-10ユニットから構成されるファームの実証試験、その後大規模な商業ファームの実証試験が予定される。
Table 1 波力発電装置の分類
形式 動作原理
可動物体型 1. Attenuator 複数の浮体がヒンジ結合され、異なる部分が入射波の異なる位相を受ける(Crestwingなど)。
2. Point Absorber 2つの物体から構成され、一方が波により運動し、他方が固定点となる(Powerbuoy,Wavebobなど)。
3. Oscillating Surge Wave Converter 沿岸域海底に置かれた基礎にフラップがヒンジ接続された装置。沿岸では水粒子の運動は楕円になるため、その水平運動成分(サージ)でフラップを前後に動かす(WaveRollerなど)。
振動水柱型 装置が波を切るたびに空気室内の水柱が振動する。水柱振動により空気室内の空気が出入し、双方向に通過する空気流がタービンを回転させる(OE Bouy,Oceanlinxなど)。
越波型 越波型装置はエネルギー収集部、貯蔵部、抽出部から構成される。収集部は広く、貯蔵部でより狭くなることにより入射波が垂直に大きくなる。波は収集器の終端にある貯蔵所で保存され、低ヘッドにあるタービンを回転させて再び海に戻る(Wave Dragonなど)。
 
Table 2 近年の波力発電装置の実海域実験事例
装置名 製造 発電機容量 形式 設置海域 設置年 URL
UniWave200 Wave Swell Energy 200kW 振動水柱型 King Island, Tasmania 2021 https://www.waveswell.com/
OE35 Ocean Energy 500kW 振動水柱型 Hawaii, USA 2021 https://oceanenergyusa.com/
Zhoushan(Sharp Eagle) Guangzhou Institute of Energy Conversion 500kW 可動物体型 Wanshan Island, Zhuhai city, China 2020 -
Changshan(Sharp Eagle) Guangzhou Institute of Energy Conversion 500kW 可動物体型 Wanshan Island, Zhuhai city, China 2021 -
Yongsoo OWC Korea Institute of Ocean Science and Technology (KIOST) 2x250kW 振動水柱型 Jeju Island, Korea 2016 -
Mutriku OWC Wavegen 16x18,5kW 振動水柱型 Mutriku, Spanish Basque Country 2010- https://www.bimep.com
WaveRoller AW-Energy 350kW 可動物体型 Peniche, Portugal 2019 https://aw-energy.com/
Tordenskiold Crestwing - 可動物体型 Hirsholm Islands, Denmark 2020- https://crestwing.dk/
HiWave-5 CorPower Ocean - 可動物体型 EMEC 2020- https://www.corpowerocean.com/

4. 実海域実験場
波力発電装置では、台風等の異常海象時における装置の生存性が重大な問題になる。装置によって生存戦略は異なるが、一般的には発電を止めて波力を受け流す戦略をとる。一方、台風時に重大な要素部品を保護するシステムをもつ装置もある。例えばWavestarではフロートを水から上げることで、またAquamarine Power 社のOyster はフラップを海底近くに折り畳んで過大な波力による機器の破損を防止する。しかし、ほとんどの場合、極端な波力に耐える構造で建造しなければならない。小規模モデルであれば、百年に一度あるような大きな波については水槽実験できるが、フルスケール機が実海域において長期間続く暴風雨に耐えることを示す必要がある。そのため、プロトタイプ試験用の実海実験場で試験を実施した後、本来の設置ポイントに移動する。
各国はこの実海実験場の整備にも注力している。実験場のフラッグシップは2004年から運用されている英国Orkney のEuropean Marine Energy Centre (EMEC) である3)。グリッド接続した海中送電設備を整備した4つのバースを持っており、海岸にはデータモニタリングなどの支援設備をもつ。EMEC は現在波力発電機器のベンチマーク実験場となっている。その他の実験場は IEA-OES の作成した Web GIS データベースにまとめられている4)

5. 今後必要な技術
European Technology and Innovation Platform for Ocean Energy (ETIP Ocean)は海洋エネルギー分野において海洋エネルギーの研究開発の課題領域と優先トピックを示した5)
1)海洋エネルギー装置の設計と検証
・実際の海の状況での経験を増やすための海洋エネルギー装置のデモンストレーション
・海洋エネルギーパイロットファームのデモンストレーション
・動力取り出しおよび制御システムの改善とデモ
・革新的な材料の適用
・新しい波力エネルギー装置の開発
・潮汐用ブレードとロータの改良
2)基礎、接続、係留
・浮体式海洋エネルギー装置用の高度な係留・接続
・海底固定海洋エネルギー装置の接続システムの改善
3)ロジスティクスと運用
・海上物流と運用の最適化
・状態監視と予知保全の計装
4)エネルギーシステムの統合
・ニッチな市場における海洋エネルギーの商業的な開発と実証
・海洋エネルギーの系統スケールのメリットの定量化と実証
5)データ収集と分析およびモデリングツール
・海洋エネルギー装置の設計と運用を最適化する海洋観測とモデリング
・海洋エネルギーのオープンデータリポジトリ
6)分野横断的な課題
・海洋エネルギーの環境および社会経済的影響の改善
・標準化と認証

参考文献
1. REN21 (2020), Renewables Global Status Reports, https://www.ren21.net/reports/global-status-report/
2. Ocean Energy Europe (2018), Ocean Energy Key trends and statistics 2018, https://www.etipocean.eu/resources/ocean-energy-statistics-2018/
3. European Marine Energy Centre, http://www.emec.org.uk
4. Ocean Energy Systems (2014), WEB GIS Database, https://www.ocean-energy-systems.org/oes-projects/web-gis-database/
5. ETIP Ocean (2020), Strategic Research and Innovation Agenda for Ocean Energy, https://www.etipocean.eu/resources/strategic-research-and-innovation-agenda-for-ocean-energy/